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水辺の賢者たち-1-
     金森 直治
我が国最古、おそらく世界で最も古い水中の公害告発「水中魚論」

錦亭鳴虫とは何者?
 「きんていめいちゅう」か、「にしきていなきむし」か、ルビがふってないので読み方は定かでないが、名のある浮世絵師の戯号ではないかと思われる。
 ともかく我が国最初とされる珍しい絵を描いた人物なのである。
 「水中魚論・丘釣話」(すいちゅうぎょろん・おかづりばなし)文政元年(1818)戯作者・岡山鳥(おかさんちょう)が著したもので、釣り文献では最古の刊本(かんぽん)である。
 二人のヘボ釣り師のとぼけた釣り場風景だが、途中から場面が変わって水の中の魚たちの対話になる。「今日はヘタなやつばかりだなあ…」などと。
 二ページにわたるさし絵が二ケ所。「水中の一」は釣り師のおろした仕掛けにワッと群がる小さなエサ取りたち。狙う大魚はせせら笑っている…という絵。
 そして「水中の二」が問題の作品である。大きなコイとフナ、それに両てんぴんの仕掛けなどが正確に描かれているが、驚くのは絵の下三分の一ほど。欠けた茶碗や皿、折れたクシやカンザシなど底も見えないゴミの山なのである。上からは布切れがゆらりと落ちてくる。
 この目をそむけたくなるような墨刷りの木版画は、まぎれもなく我が国の公害告発の絵の第一号なのである。
 楽しいはずの釣りの本になぜこのようなおぞましい絵を描いたのであろうか。
 錦亭鳴虫という人、おそらくは不要な物をポイポイと水に捨てる日本人の悪いクセを、苦々しく思っていたに違いない。そして「釣り場を大切に」というメッセージだったのであろう。見事な見識というべきである。


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