SOLAS条約・港湾の立ち入り制限
全国各港で波紋が拡大
鳥取・賀露など、柔軟な姿勢で対応する港も
「海上人命安全条約(SOLAS条約)」に対応するため定められた「国際船舶・港湾保全法」に基づいて、国土交通省が指定して、保安対策の義務化を予定している、特定重要港湾(24港)と、重要港湾112港の大半で、テロ対策のため防護柵や照明設備などを設け、“一般市民の立ち入りを制限するなどの措置”が7月1日からはじまりました。
全釣り協がとりまとめている現状の中間報告によれば、各港とも、厳重な柵が設けられ、24時間態勢でガードマンなどが警備している場所や、日中のみ出入りをチェックし夜間は施錠するなど、対応はさまざま。
現地釣り人の側では、過剰とも思われる制限に当惑、疑義があるものの、とりあえず、厳重な管理体制を積極的に強行突破してまで釣りをするという人は見当たらず、立ち入り制限は粛々と実行されています。
当初、情報を公開しない方針も見られた「管理を実施する港湾側(自治体港湾当局)」でも、順次情報公開に踏み切る自治体が多くなり、具体的な資料の入手が可能になりつつあります。
8月4日に開かれた、平成16年度第2回全釣り協法人理事会での中間報告によると、鳥取賀露港、など数港ではあるが、地域の実情に合わせて、柔軟な運用を考慮するとの考え方を示す自治体も出てきています。
このように、話し合いによって相互の理解や、信頼関係などが成立していくにつれ、解決の方向が見られる可能性が生じている場所がある反面、依然として硬直した自治体も見受けられることから、(社)全日本釣り団体協議会では、それぞれ現地で、実情の調査や、話し合いを続けるとともに、国土交通省側に実情に合わせた柔軟な対応を求めていく考えです。
なぜか国際的とも思えない漁船の船だまりにも柵が急造されていた。
静岡県清水港で
この問題について、当初の各地港湾当局の対応を整理すると次のようなものでした
@ 情報をあらかじめ市民に公開し、協力を求める。
A 7月1日の実施日までは秘密事項なので事前の公開はできないという態度。
B すでに立ち入り禁止措置を長年にわたり続けており、今回はそれを強化するだけのことと説明する姿勢。
D 港湾は、釣りをするためにある設備ではないから、と突っぱねる。
E 国が定めた法律だから、自治体はこれを遵守する。
F 施設の予算は国が多くを負担するが、運用、管理は自治体が行わねばならず、現在の財政状況では、完全な対応を求められても無理である、
など、さまざまでした。
一方、釣り人の側からは
@ 国が外国との条約にともなって、定めたテロ対策だから、市民も協力するしかない。
A 港湾当局の姿勢は、これまでも一般市民のほうに向けられたことはない。
B かねてから港湾で釣りを楽しむことは、相互に黙認状態であった。釣りの自由に対する、重要な制限だ。
C 過剰なほどの範囲で、防護柵が構築されており、その範囲の設定に疑問がある。
D 1ヶ月に数日しかない外国船の寄港日のために、24時間体制で監視を続ける必要がないと思う。
E 港湾で、事故等が発生した場合、発見者が釣り人であることが多い。
F この機会を、これまで不振であった釣り公園に閉じ込める方策として利用する意図が感じられる。
G 別途計画されて親水設備とのセットにされている可能性があり、十分警戒する必要がある。
H 地元の釣り人を締め出すよりも、税関、検疫のほか、外来生物や病原菌などの侵入に力をそそぐべきではないか。
など、さまざまな意見が出されていました。
全釣り協では、国際条約に基づく制限であるから、釣り人も理解し、協力するほかないが、過剰な広範囲での立ち入り制限や、硬直した運用、管理の例を調べ、大まかに状態がつかめたところで、あらためて国土交通省あて、柔軟な運用を希望する主旨の要望書を提出することを視野に入れ、調査をすすめています。
これまでに各地から集まっている資料を分析すると、
東京湾、大阪湾など最重要港の場合、コンテナー埠頭など港内の奥まった場所にあり、釣り人にとってさほど大きな制限ではないという所感が多かったのですが、他方、北九州、遠州灘各地、日本海側各地、北海道の苫小牧をはじめとする外洋に面した重要港では、水質がよく、潮通しも良いところから、これまで、好釣り場として通いなれた埠頭が、突然立ち入り禁止になるなど、戸惑いを禁じ得ない場所に柵が設けられている例も多いようです。
調査に対する対応もまちまちですが、とりあえず厳戒態勢を敷いて完全立ち入り禁止を実施しているのが現状です。
保安設備の運用、管理は地方自治体に委ねられているので、まず、各地で実情を調べ、運用の柔軟なかたちを求め、その結果をとりまとめて、今後、国土交通省に柔軟な対応を求めていく方向です。
各地の都府県釣り団体協議会や正会員団体、釣りインストラクター連絡機構のほかに、一般釣り人のみなさんにも、広く意見を求めます。
調査の中間報告
【千葉県・東京都・神奈川県】
木更津、千葉、東京、川崎、横浜、横須賀の各港では、事前に制限場所を発表できないとしている。このため、東京湾の主要な釣り場を巡回調査したところ、立ち入り制限区域と思われる場所に防護柵を設けている。しかし、これまで釣りに使われていた場所とはほとんど関係がなく、影響はあまり見られない。
【静岡県】
御前崎、清水は、ほとんどのエリアで立ち入り禁止になった。御前崎の場合は、スポーツ施設の整った地頭方という堤防で、釣りができる程度。これを補う形で、釣り公園が計画されているというが、釣り人の間であは、一定区域への「閉じ込め戦略」かと、不評。清水港は、漁港の一部と、清水港内の連絡船乗り場や税関付近のみ、市民が立ち入れる。残りの大半は、立ち入り禁止。輸出入と、関係のないはずの、波消構造物の内側にもフェンスがはられており、明らかに釣り人を制限する意思あり、と捉える声が高い。
【愛知県】
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名古屋港では、名古屋港管理組合が外航船の発着する公共埠頭の16エリア延べ18kmに高さ3bの防護柵を設置した。防護柵の内側に入るためには、所々に設けられたゲートから通行証を示した港湾関係者にかぎられる。コンテナー埠頭には、監視カメラや照明設備が設置され、不審者の出入りを厳重に見張る方針。 これらの埠頭は、従来から釣り人に利用されており、制限区域の海岸線も想像外に大幅なものなので、影響は大きい。 |
【石川県】
※金沢港、七尾港が重要港に指定されている。
※金沢港では、戸水埠頭、御供田埠頭で計2100b
※七尾港では、大田埠頭で700bが立ち入り禁止となっている。
※いずれもフェンス、ゲートが設置され、日中は立哨警備でIDカードや車両通行証を確認し、港湾関係者以外の出入りを禁止している。
※荷役などのない夜間は、施錠し、巡回警備を行っている。
※ 今後の運用について、石川県庁では、一般市民や、釣り人については、無期限に立ち入りを制限するとの回答。
※ 釣りへの影響は、今回立ち入りを制限された地域が、ファミリーフィッシングの請う場所として、青少年や、家族連れに親しまれてきた場所だけに、影響が大きい。
※ 今回SOLAS条約問題が発生してから、金沢港での釣り大会をすべて中止し、成り行きを見ていたが、この状態では再開の目処が立たない。
【福井県】
敦賀港では、港内の一部が立ち入り制限区域となっている。これは従来から立ち入り禁止区域であり、付近に釣り場も多いことから、ほとんど影響はない。
【京都府】
舞鶴港では、東港の前島埠頭、西港の和田埠頭、喜多埠頭、第2、第3、第4埠頭が立ち入りを制限される。喜多の埋立地と、和田埠頭については、好釣り場とされてきたが、その他の埠頭に関しては訪れる釣り人も少なく、あまり影響はない。
【大阪府】
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◎ 大阪港
大阪市では、安治川から桜島、梅町、梅町西、天保山の一部、中央突堤、第2、3、5、6、7の各埠頭、大阪南港のコンテナー埠頭、公社埠頭、舞洲の東向き(HS1〜3号)などのほか、私設埠頭28箇所を含め、かなり広い範囲が指定されている。ただし、これまでから、ほとんど釣り人が入る場所ではなく、また私設埠頭などは元来立ち入りが禁じられている場所なので、釣りへの影響はあまりなさそう。 泉大津の汐見埠頭の2号、3号、4号、5号と、ほぼ全域にあたる場所と、助松埠頭の北側一部が立ち入り禁止になっている。これまで一般市民がアジ、サバ、タチウオなど回遊魚の釣り場として親しんできた場所だけに、打撃は大きい。 |
(写真:高いフェンスに囲まれた、汐見埠頭の 立ち入り禁止区域に、ガードマンが一人) |
大浜埠頭では5号の先端部のみが立ち入り禁止になっている。荷役や大型車の往来が激しい地域だが、夏から秋にかけて、タチウオ釣りを楽しむ人が散見された程度で、さほど大きな打撃ではない。
◎阪南港では、岸和田1号、2号埠頭が立ち入り禁止だが、あまり影響はない。
【兵庫県】
◎神戸港 立ち入り制限地域計は42箇所
六甲アイランド 20箇所(南向きの一部を除く全域)
摩耶埠頭 5箇所
新港東埠頭 2箇所
新港第4突堤 4箇所
ポートアイランド 9箇所
兵庫突堤 2箇所
◎姫路港 飾磨区中島の一部と姫路ポートセンターから先の埋立地ほぼ全域
◎御津港 揖保川河口左岸の貯木場付近2箇所
◎ 別府港 本荘第1人工島の内向き一部
全体として、これまで立ち入りが禁じられていた地域がほとんどなので、釣りに大きな影響はなさそうだが、これまで一般市民と港湾当局との接点がほとんどなく、今回も市民への積極的な対応がみえられなかった。今後の港と市民のかかわりのありかたが気がかり。
【和歌山県】
◎和歌山下津港 和歌山港の通称、フェリー乗り場付近(薬種畑桟橋)と、万トン岸壁(中埠頭)
旧貯木場(西浜三号、五号岸壁)
北港沖第一岸壁が立ち入り禁止となった。
従来から夜間はゲートを閉じていた場所であるが、ファミリーフィッシングでアジ・サバ・カワハギなどを 狙うには、絶好の釣り場だった。
【鳥取県】
◎境港港制限指定区域 昭和南1号、2号、3号、4号岸壁およびその背後地
外港1号、2号岸壁およびその背後地
竹内2号、3号、4号岸壁およびその背後地
(境港市竹内団地152地先)
江島1号、2号岸壁 境港江島地区江島埠頭
(島根県八束郡八束町大字江島)
◎鳥取賀露港 賀露1号岸壁(ただし国際航海船舶が国際埠頭施設を利用している時間帯および国際航海船舶に積み込む予定の貨物が蔵置されている時間帯を制限期間とする)
従来から鳥取県港湾当局と鳥取県釣り協との連絡があったためか、かなり柔軟な対応がうかがえる。
釣り人側もこの制限時間帯を理解し、遵守する方向で関係方面に告知している。
【島根県】
1.島根県浜田港(重要港湾)
浜田港は明治29年(1896)貿易港として指定され、又、県下最大の漁港です。このため多くの埋立地波止場と防波堤があり、人気のある釣り場として地元はもとより、山陽方面、山陰各地から大勢の釣りフアンで賑う中国地方でも屈指の釣り場です。
制限区域
(1)福井波止を含む、3万トンバース関連の埋立地波止場の広域な範囲が制限区域となりました。この制限区域は浜田港湾のほぼ中央部の位置に在ります。制限区域
は高いフェンスで囲われ立ち入り禁止です。
今までこの場所で楽しまれていたベテランから初心者,ファミリーフィッシングの方々や多くの釣りファンにとって影響は大きいでしょう。
(2)大島波止に到る、右側のバース関連の埋立地波止場一帯が制限区域。この制限区域は浜田港湾西側の浜田商港内の位置にある。この区域は以前から関係者以外の
立ち入りは禁止とされていた区域であり、釣り人への影響はほとんど無い。幸いなのは海に面して、この地域では最先端にある大島波止に至る道路が従来のままである事だ。このため大島波止は規制外で7月1日以後も釣り人の姿が多く見られた。
2.島根県三隅港(重要港湾)
三隅港は新しい港湾です、ごく最近埋立地波止場及び港湾内の波止等が完成されました。まだ埋立地波止場内の目立った上物建造物はありません。
現在は埋立地波止場に自由に出入りが出来、釣りも可能で制限区域はありません。この港湾施設に隣接して中国電力の石炭火力発電所があり、港湾内は中国電力関係の警戒船4隻が24時間体制で水上パトロールを行っています。
現状では広広とした釣り場で釣り人ものびのびと釣りを楽しんでいます。
【愛媛県】
愛媛県における立ち入り禁止区域は、
◎松山港外港(松山市) フェンス設置 終日禁止
◎新居浜港(新居浜市) フェンス設置 終日禁止
◎三島川之江港(川之江市) 終日禁止
◎今治港(今治市) 終日禁止
◎東予港(東予市) 終日禁止
◎宇和島港(宇和島市) 終日禁止
釣りの好場所として親しまれた場所が多いだけに、釣り人としてはかなり打撃になる。
【大分県】
立ち入り制限区域は
◎ 大分市5号地
◎ 大分市大在公共埠頭 3箇所
◎ 佐伯市女島(株)興人地先 1箇所
※ 陸からの釣りばかりではなく、岸壁付近30bにマイボートを立ち入り制限区域が8箇所ある。
※ 運用については、人物証明などが円滑にできないので、釣り人が入ることは不可能との回答。
※ 大分市内では、手軽な釣りが楽しめると、家族連れに人気があった場所で、ゼンゴ、メイタ、タチウオ、時にはマダイなどの大物も釣れる。地元の釣り人への影響は大きい。