第一回特定外来生物等分類群グループ会合(魚類)
  オオクチバス小グループ会合

議事概要

 

1 日 時           平成16年11月26日10時〜12時
2 場 所           経済産業省別館8階821会議室
3 出席者
(委員)多紀 保彦(座長)、瀬能 宏、中井 克樹、細谷 和海、丸山 隆、
水口 憲哉   
  (利用関係者)全国内水面漁業協同組合連合会 専務理事 橋本 啓芳      
(社)全日本釣り団体協議会 専務理事  來田 仁成
(財)日本釣振興会 副会長・外来魚対策検討委員会委員長 高宮 俊諦
  (環境省)生物多様性企画官、野生生物課課長補佐
  (農林水産省)水産庁沿岸沖合課長、生態系保全室長

 

4 議事概要
(事務局より資料を用いて説明し、質疑応答)

 

<本会合の位置づけ>
魚類専門家会合でも議論したが、魚類専門家会合と、この小グループとの関係がまだ充分に理解できていない。
 特定外来生物や未判定外来生物を決める判定権の所在を明らかにしてほしい。
(事務局)
資料1−3のフローにあるように、最終的な決定権は全体会合にあり、全体会合が各分類群ごとの専門家会合に
諮るということになっている。魚類専門家会合と小グループも同じ関係であり、小グループでの結論を、魚類専
門家会合に上げるということになる。

 

<影響と利用の現状〜各委員・利用関係者から順に発言>
今回の法律そのものについては、これまで日本で整備されなかったものであり、賛同している。
 海外でもかなりの国で整備されているので、むしろ遅かったぐらいである。
 国内外来種、海外外来種ともに、移動に一定の制限を課すべきであり、不法な移動をしっかり取り締まるべき
 である。
日本には、過去1000年間に大変な数の外来種が導入されており、小麦、米、キャベツ、ヒガンバナ、ヨモギ
 など様々な動植物を、食料あるいは鑑賞目的で取り入れてきた。
 魚類についても
150種以上が国策に近い形で導入されている。
バスの選定については、これまで人間が環境を破壊してきたことを考えると、既に自然環境にある程度組み込ま
 れて来た生き物について、その善し悪しを安易に決めて良いものか、釣り人の間でも疑問が出ている。
魚類の全国調査というのは、環境省も水産庁も行っていない。
 在来魚、外来魚の生息数調査をし、その結果に基づいて必要な対応をするのであれば、釣り人もかなりの面で
 協力できると思う。

 

生物の多様性保全の立場から2点。
 一つは、バスが他の外来種とは比較にならぬほど大きな被害を出しているという点である。
 被害に関する調査というのは、様々な主体によって担われており、公表されている資料以外にも蓄積がある。
 それが集大成されていないという点は今後の課題だが、在来生態系に深刻な被害を与えていることについては、
 少なくとも研究者の間では共有されている。
もう一つは、適正な管理がなされているか、という点である。現状はとてもそうとは言えない。既に沖縄を除く
 46都道府県において、内水面漁業調整規則でバスの移動が規制されているが、ミヤコタナゴの生息地への放流
 長野県での密放流、富山県で実際に検挙された例、最近琵琶湖で確認されたフロリダバスの遺伝子など分布を拡
 大している事例は全国で見られ、現状ではこれ以上の管理が難しい。
 そのため、より厳しく取り締まることが可能な、今回の法律を適用する必要があると考える。

 

在来魚に外来魚が大きな影響を与えているというのは、共通認識であると思う。
 全国的に広がりすぎていて管理不能だと言われるが、全面駆除すべきだという前提に立って話を進めてしまうと
 反発を招く。悪者と決めつけるのではなく、現在の課題をどう整理整頓していくか、という建設的な方向に話を
 もっていく必要がある。
もう一つ素朴な話として、人間が持ち込んだバスをどう考えるか。
 釣り人は、一匹の魚を釣るたびに、その命に申し訳ないと考えている。だから、釣った魚に対して、それに見合
 うだけの受け取り方をする、というのが釣り人の基本的な態度である。
その辺を踏まえて秩序作りへと向かえる話し合いの場であってほしい。
密放流で増やすというのは、現在非常に難しい状況になっていると考える。
 我々は釣りインストラクターを通じて啓発を行い、密放流を監視するよう呼びかけているが、密放流があったと
 する報告は一件もない。
  在来魚の減少は、本当にバス放流だけが原因なのか。人間がやってきた自然破壊のツケを、全てバスに押しつけるのでは釣りの仲間たちを説得しかねる。

 

バス問題は、利用者の多さという点からも、外来種問題の中でも非常に特殊、特別である。バスがなぜ問題かと言えば、魚食性という点以上に、大変バランスを崩して増えてしまう点にある。バスのように増えるのであれば、他の魚食性の魚であっても、同じように問題となる。

今回の法律には、よそ者排除という受け取り方もあるが、管理の必要なものを適正に管理しなければならないという点では、合意できると思う。野生生物では、シカやクマなどの在来種も、問題が生じれば駆除される。対症療法としては、放置しておけないものがある時には、管理しなければならない。排他的思想ではなく、管理が必要なものについて取組をすることについてはどちらも納得する。管理の議論の土俵で建設的な形になることを期待する。

自然のバランスの崩れを引き起こすもの、増えすぎてしまうものと、どう賢くつきあっていくのか。そこでは、我々もある程度心の痛みを持ちながら、対処していく必要がある。

 

全内漁連としては、バスに対して一匹たりとも導入させない、ということではない。管理のあり方としては、例えば池が10あるとしたら、そのうちの1つにはバスを入れても良いが、他の9つには入れない、という方法もあり得る。しかし、これまでの歴史から言えば、そのルールが絶対に守れない。だから、排除するしかない、というスタンスになってしまう。管理が徹底的にできる仕組みとなるのであれば期待する。

管理というのはとても難しい。歴史を見ると、水産庁も「対処する」といいながら、結局全国に広がっていってしまった経緯がある。今回の法律で本当に管理が出来るのかと思う部分もあるが、できればそういう方向に向かってほしい、と期待している。問題は密放流の歯止めとなるかどうか。バスの選定が適正な管理に結びつくならば、是非特定外来生物への選定を御願いしたい。

 

生物多様性という視点から話をしたい。生物多様性とは非常に広い概念であり、水産も視野に入れており、個別の問題というよりも、全て同じ根っこをもっている。

バスの影響は極めて重大であり、早急に対応すべきである。我が国に生息する320種の淡水魚のうち、オオクチバスほど情報のあるものはない。バスの影響が重大である理由は、1.スズキ型であること、2.止水性であること、3.温水魚であり容易に定着すること、4.雄が営巣をし、卵・仔魚を保護すること、そして最も重要な点として、5.環境放出を大前提にしていること、が挙げられる。今の問題状況を見ると、バスの持っている負の効果が、日本では全て当てはめられてしまったといえる。

日本は細長いので、淡水魚の種類は非常に多い。日本の中で、固有種保護の観点から絶対にバスを入れてはいけないと私が考える水系は4つある。1つは霞ヶ浦・利根川水系。2つ目は琵琶湖・淀川水系。3つ目は有明海周辺の水系。4つ目は西表島の水系。このうち、西表島以外は、全て汚染されてしまっている。もう余り考えている時間もない。早急な対応が必要である。

バスの影響については、このような場では既に言い尽くした感がある。今後は、駆除に携わっている市民団体など、社会的な側面が重要であり、むしろそちらを議論すべきではないか。釣り人には、バス釣り継続の客観的理由を提示して欲しい。

生物多様性条約では、外来種が生物多様性にとって最大の脅威であることが共有されている。外来種対策の取組の姿勢は、その国の文化程度のレベルを測る良いツールである。今回の外来生物法は、日本が文化国家であるかどうかの踏み絵そのものと言える。

 

肉食性外来魚は、昔は「害魚」と言われ、非難されてきた。10年ほど前から「生態系の被害」という言葉で非難されるようになったが、「生態系の被害」という言葉は間違っている、と学術的立場から指摘したところ、その言葉は使われなくなり、その後1992年頃からは、「生物多様性への被害」という適切な言葉が使われるようになった。それにも関わらず、今回の法律では、「生態系に係る被害」という言葉が明記されてしまっており、これは全くの間違いである。

ブラックバスの影響について、環境省野生生物課が『ブラックバス・ブルーギルが在来生物群集及び生態系に与える影響と対策』という報告書を出している。その中では、「ブラックバス・ブルーギルが定着・侵入することで、本邦の湖沼生態系がどのような影響を受けているのかについての知見はほとんどなかったが、近年、埼玉県のため池で行われた実験によって、ブラックバスの捕食による影響が直接的にあるいは間接的に他の生物群集へと波及することが検証された」とされている。ここでは、その「ため池」だけでしか、生態系への影響が検証されていないことが明示されている。今回の法律では、この「ため池」の事例を、「全国の湖沼」に当てはめようとしているが、これは無理であり、この点に関して何らかの具体的対応をすべきである。

資料2では、生態系に係る被害として4つの項目が記されているが、これらについて否定はしない。しかし、これらは小さい水域における事例であり、これを全国の湖沼、特に大きい水域に当てはめるのは無理である。

オオクチバスについて、輸入や移動の制限は必要であるが、種指定ではなく、地域指定で対応すべきである。アメリカでは、レイシー法でタイワンドジョウ属の国内移動を禁じているようだが、そうした対応がふさわしい。特定外来生物という種指定によって全部網を掛けようとするとおかしくなる。

 

先ほど生態系に関する指摘があった。生態系という言葉は、生物群集から無機的なものまで、全てを総括して捉えるための枠組みとして用いられる概念であり、現実に存在するものではない。しかし社会では、この生態系という言葉が、本来の意味とは異なる使い方で使われているのも事実であり、作業上必要であれば置き換えていけばいい。私としては、法律の文言としては、このままでも依存はない。

この会議では、漠然とした話ではなく、具体的にどんな問題、提案があるのかを話合っていきたい。バスについては、影響が明らかではないという意見もあるが、何が明らかでないのかを具体的に言わなければ議論が進まない。在来魚の減少は、バスの影響ではなく、他の環境の変化が原因であるという意見もあるが、そこでいう「環境」とは具体的に何なのかを示さなければ議論が進まない。

 

<質疑応答>

対応としては、いろいろなあり方を考慮すべきである。増えることが問題であり管理すべきであるという意見があったが、この点を環境省では防除といい、世間では駆除という。大事なのは適正な状態に管理することではないか。増えることが問題というならば、生態系に係る被害を、認知されないレベルに留める、問題のないレベルにまで間引くことなら実現可能だと思う。バスは、基本的には全国的に減少傾向にあると考えており、猛烈に増えているという状況ではない。魚類専門家会合で示された7種と比してバスはデータがあるのは事実だが、経年変化についてはほとんどデータがない。

増える、釣れる、ということに関しては、釣り人による情報の精度はかなり高い。増えている場所もあるかもしれないが、平均値で見れば10年前より生息数は減少しているのではないか。環境省も水産庁もデータを持っていないので、外来魚と在来魚について生息数の全国調査をおこない、そこから議論をすべきである。

個体群は変動するので、増えている/減っているということよりも、問題は分布域の拡大と動物群集の変遷である。釣り人の情報は必要だが、地元の市民は熟知しており市民団体の調査では被害実態も出ているのではないか。

バスが減少しているという話があったが、たとえ減ったとしても、バスが増える前の生態系に戻る訳ではない。調査についても、1−2年の断片的調査をやれというのは簡単だが、誰が調査するのか、誰が費用を負担するのか、難しい問題である。そうではなく、我々に出来る範囲で何が出来るのか、ということが重要ではないか。

学校でのミジンコの実験という例で言っても、個体数の変動には、潜伏期、発展期、衰退期がある。生物群集は増減することが当然であり、どのレベルで留まるのか、という点を考えるためにこの会合は存在しているはずである。適正な管理をするということは共通認識。

 

環境への放出や密放流について、言われていることは、我々の認識とは違う。漁業調整規則で外来種の移植が禁止されて以降、日常的に密放流の横行はあり得ない。この点について、具体的にどんな密放流があったのかと尋ねても、今までいなかった場所にいるようになったのは、密放流があったとしか考えられない、という極めて漠然とした答えしか返ってこない。

これまでバスがいなかったところに、バスが入ったという結果を問題にしている。いろいろな事を想定して対処すべきであり、取り締まりをどうするか、という点を考えるべきである。

 

具体的に内水面の漁業権魚種について、ワカサギなどが被害を受けているというが、具体的な被害額はいくらなのか。この点については、3年前に佐藤謙一郎議員が質問主意書を出したところ、政府からの回答は把握していないというものだった。影響や被害のおそれがあるという前に、これまでにあったという具体的な被害の方を確認すべきではないか。

(事務局)被害の把握という点について、全国的なレベルでは定量的なデータとして直接

の数字は押さえていない。しかし、現場レベルでは様々な取り組みがあり、放流効果があがらない要因の一つとして、外来魚による食害がある、という定性的な把握を行っている。また、漁獲統計も、全国レベルのものはないが、地域的には把握しているところがある。

 

バスの生息域が新しく見つかったら、そこは一掃するという対処が考えられる。ここはバスがいてはいけない場所、ここは元々いなかった場所、そういう場所は具体的にどこなのかという提案が必要である。

 

もしバスが指定されたらどうなるのか、利用への影響等を整理して、それを次回書面で提出したい。逆に指定されない、としたらどういう問題があるのか。いずれにせよ、生息域の拡大は、極力抑えたいと考えている。

多様性保全から言えば、止水域のものが影響を受ける。目立たない湖沼が全国にたくさんあるが、その数や生息する希少生物の数から見ると、それらの湖沼に対する影響の方が、琵琶湖・霞ヶ浦よりも重大である。それに関連するデータを次回示したい。個体数の経時的変化という話が出たが、それまで生息していた生き物が地域的に絶滅する、という重要な事例が多数ある。

バスを入れてはいけない地域を具体的に示す、という話があったが、希少生物の生息地は公表できない事情もある。差し支えない範囲で示したい。

 

 

(文責:環境省自然環境局野生生物課 速報のため事後修正の可能性あり)




Topへ戻る